シップスミス蒸溜所
Sipsmith
基本情報
| 所在地 | ロンドン・チズウィック(83 Cranbrook Road, W4 2LJ)[1][2] |
|---|---|
| 運営 | 2026年9月時点でSuntory Global Spirits(2016年12月に前身のBeam Suntoryが経営権取得を発表)[3][4] |
| 生産開始 | 2009年(蒸溜免許は2008年12月取得)[1][3][5] |
| 主な蒸溜器 | プルーデンス(300リットル、独クリスチャン・カール製)、コンスタンス、ヴェリティ、試作用のシグネット(50リットル)[6][5][7][8] |
| 製法 | ワンショット(蒸溜後は水のみ加える)[9][5] |
| 認証 | B Corporation(2021年取得)[1][2] |
| 見学 | 予約制(2026年9月時点、月〜金のほとんどの夕方にツアー)[3][2] |
目次
仕事と家を手放して始めた蒸溜所
シップスミスはロンドン西部、チズウィックの蒸溜所です。立ち上げたのは幼なじみのサム・ガルズワージーとフェアファックス・ホールで、酒の歴史家でもあるジャレッド・ブラウンがマスターディスティラーとして加わりました。[1][3][10]
構想が生まれたのは2002年です。Difford's Guideによると、ふたりはアメリカのフィラデルフィアで、広がりはじめていた小さな蒸溜所の動きに刺激を受けて、この構想を得ました。サントリーは、ふたりが子どものころから一緒に事業を始める夢を語り合っていたと紹介しています。[3][5]
当時サムはビール会社のフラーズ、フェアファックスはディアジオに勤めていましたが、ふたりは2007年1月にそろって仕事を辞め、家を売った資金を蒸溜所につぎ込みます。ブラウンとはネグローニのパーティーで出会っています。[3][1]
300リットルの蒸溜器に免許が下りるまで
壁は法律でした。英国には1823年の物品税法が残っていて、容量1,800リットル未満の蒸溜器には免許が出なかったのです。最初の蒸溜器プルーデンスの仕込み容量は300リットルで、その6分の1ほどしかありません。[1][6]
Difford's Guideによると、英国の税関当局(HMRC)は当初、蒸溜器と販売の場を近くに置けないという古い規定も理由に申請を退けました。ふたりは、スコットランドには見学施設やバーを持つ蒸溜所がすでに多いことを挙げて異議を申し立て、案件はグラスゴーに回されます。2007年1月に始めた交渉は、2008年12月に免許が下りるまで2年近く続きました。サントリーもこの期間を「2年間」と紹介しています。[3][5]
この働きかけが小規模な蒸溜への道を開いた、とシップスミスは説明しています。そして2009年3月14日、プルーデンスで最初のレシピが完成し、ロンドンではおよそ200年ぶりとなる銅製ポットスチルの蒸溜所が動き出しました。[1][3]
売り込みは自分たちの足で。サムがヤマハのスクーターでボトルを届けた先は、パークレーンのドーチェスター・ホテル。バーの責任者ジュリアーノ・モランディンが最初の注文を出した、と伝えられています。8か月で取引先は50軒を超えました。[3]
最初の拠点はハマースミスの元醸造所
始まりはハマースミス。ナスミス・ストリート27番地の建物で、フェアファックスが窓をのぞくと、ほこりをかぶった酒瓶がずらりと並んでいたそうです。かつて小さなビール醸造所だった場所で、酒類ライターの故マイケル・ジャクソンが借りていたこともわかりました。[3]
2014年、蒸溜所はチズウィックのクランブルック・ロード83番地へ移りました。ジンはすべてここでつくっている、と公式サイトは書いています(2026年9月時点)。[1][2]
蒸溜器には一基ずつ名前がある
蒸溜器には名前があります。サントリーの紹介では、プルーデンスは「倹約」、ペイシェンスは「忍耐」、コンスタンスは「継続」、ヴェリティは「真実」という意味です。2026年9月時点の同社の説明では、2基目のペイシェンスが休止し、4基目のヴェリティが動いています。[5]
倹約という名には、時代が映っています。Difford's Guideによると、創業当時は景気が冷え込み、首相ゴードン・ブラウンが好んで使った言葉がプルーデンスでした。[3]
1基目のプルーデンスをつくったのは、ドイツで最も古い蒸溜器メーカーとされるクリスチャン・カールです。仕込み容量は300リットル。首が細く、途中に球状のふくらみ(ボイルボール)があるのは、蒸気の一部を上りきる前に冷やして下へ戻すためです。戻っては立ちのぼることを繰り返すうちに蒸気は少しずつ精製されていき、この動きを還流と呼びます。底には個別に調整できる6つのヒーターがあり、ボタニカル用の蒸気室と5段の精溜塔も付いています。板は一枚ずつ開け閉めできます。塔をまるごと迂回させることも可能です。[6][11]
2015年には、1869年から蒸溜器を手がけるドイツのカール家がつくった、いちばん小さな蒸溜器「シグネット」が加わりました。容量は50リットルで、上部の球形の部品を使うと10リットルほどの少量でも蒸溜でき、大きな蒸溜器がフル稼働していたことから、試作や新しいジンづくりを受け持つ一基として導入されました。ボタニカルを液に浸けず、立ちのぼる蒸気に香りを移す方法(ヴェイパー・インフュージョン)も試せます。[7]
同じ2015年には、会員向けの「Sipping Society」も始まりました。届くのはシグネット生まれの新作です。2026年9月時点の公式サイトによると、会員は年間を通じて、この小さな蒸溜器でつくった新しいジンを受け取っています。[1]
ラテン語に由来する「シグネット」は白鳥のひなのことで、ブランドの白鳥の印そのものは蒸溜器の上部で弧を描く「スワンネック(白鳥の首)」から来ています。[8]
Difford's Guideは、プルーデンスがほぼ毎日動き、1回の蒸溜で300本分、年間8万本をつくると伝えています。[3]
つくり方
前日の夜、蒸溜器にスピリッツと水とボタニカルを入れて一晩浸け、翌朝から蒸溜して、瓶には蒸溜液の中ほどのハートだけを詰めます。蒸溜後に加えるのは水だけ。これが「ワンショット」です。[11][2][9]
ベースについて、シップスミスはイングランド産小麦のスピリッツと説明し、Difford's Guideはイングランド産大麦由来のスピリッツを自社で蒸溜し直したウォッカとしています。[2][6]
サントリーの傘下へ、その後の歩み
2016年12月16日、Beam Suntory(現在のSuntory Global Spirits)がシップスミスの経営権を取得すると発表しました。発表の時点で売上の3分の2以上は英国で、ふたりの創業者は引き続き経営に深く関わるとされました。[4][3]
日本での発売は2019年1月です。同じ年にブランドは10周年を迎え、2020年にはウィンブルドンの公式ジンパートナーになりました。B Corporationの認証は2021年、ボトルの刷新は2023年です。[12][13][1]
ブラウンの研究は、商品にもなりました。2024年9月に出た限定品「Origin 1639」は、1639年の蒸溜書『The Distiller of London』に載った処方をもとにしたジンです。調べたのはブラウンと、同じく酒の歴史家で妻のアニスタシア・ミラーで、ふたりはその成果を著書『A Most Noble Water』にまとめています。[14]
見学
見学は予約制。2026年9月時点の公式サイトでは、月曜から金曜のうち、ほとんどの日の夕方にツアーを行っています。[3][2]
年表
| 2002年 | サム・ガルズワージーとフェアファックス・ホールが、アメリカ・フィラデルフィアでの会話から蒸溜所の構想を得る[3] |
|---|---|
| 2007年1月 | ふたりが勤務先(フラーズ、ディアジオ)を辞める[3] |
| 2007年 | ネグローニのパーティーで、ドリンクの専門家ジャレッド・ブラウンと知り合う[1][3] |
| 2008年12月 | 蒸溜免許を取得[3][5] |
| 2009年3月14日 | 最初の蒸溜器プルーデンスで最終レシピが完成(Difford's Guideは同日を最初の生産バッチとしている)[1][3] |
| 2014年 | ハマースミスからチズウィックへ移転[1] |
| 2015年 | 試作用の蒸溜器シグネットが到着し、会員向けシリーズ「Sipping Society」を開始[1][7] |
| 2016年12月 | Beam Suntoryが経営権の取得を発表(完了は2017年1月の見込みとされた)[4] |
| 2019年1月 | サントリーが日本での販売を開始[12][13] |
| 2020年 | ウィンブルドンの公式ジンパートナーになる[1] |
| 2021年 | B Corporationの認証を取得[1] |
| 2023年 | ボトルのデザインを刷新[1] |
| 2024年9月 | 1639年の蒸溜書をもとにした限定品「Origin 1639」を発売[14] |
シップスミス蒸溜所の銘柄
参考資料
- Sipsmith 公式
- Sipsmith 公式(FAQ, US)
- Difford's Guide(Sipsmith 歴史)
- Suntory Global Spirits(2016年12月16日 プレスリリース)
- サントリー(輸入元)ブランドサイト
- Difford's Guide(Sipsmith 製法)
- Sipsmith 公式(Introducing Cygnet, 2015)
- Sipsmith 公式(The Story Behind the Sipsmith Swan)
- Sipsmith 公式(Inside One-Shot Distillation)
- Sipsmith 公式(Jared Brown のお気に入りカクテル)
- Sipsmith 公式(Our Process, US)
- 週刊アスキー(2019年2月11日)
- Hanako Web(2019年)
- Suntory Global Spirits(2024年9月16日 プレスリリース)
最終更新:2026-09-28 内容の誤りを知らせる