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リコリスLiquorice

マメ科の甘草の根を粉にして使うボタニカルです。ジンに甘みと厚み、余韻を足し、菓子のリコリスとは別の役を担います。

リコリスの基本情報

学名Glycyrrhiza glabra L.[1][2]
科マメ科(Fabaceae)[1]
使う部位根(乾燥、粉にして使う)[2][3]
主な産地中国、シリア、トルコ、イラン(The Gin Guildが挙げる産地)[2]
収穫期7月〜9月(商業栽培での目安)[2]
香りの系統甘みを帯びたほろ苦さ、木や土を思わせる風味(Difford's Guide)[3]

目次

  1. リコリスはマメ科の根で、ジンでは甘みと余韻を足す土台役です
  2. 甘みのもとはグリチルリチン酸で、風味は精油ではなくこの成分が担うとされます
  3. ジンの中では、ほろ苦い甘みと厚みで全体をなじませます
  4. リコリスの根とリコリス菓子は別物です
  5. 歴史は薬から始まり、英国では18世紀にリコリス菓子が生まれます
  6. Gin-Atlas掲載銘柄でのリコリス
  7. 日本では「甘草」と呼ばれ、生薬であり、食品の原料でもあります

リコリスはマメ科の根で、ジンでは甘みと余韻を足す土台役です

リコリスの学名は Glycyrrhiza glabra です。Kew(英国王立植物園)の植物データベースは、マメ科の多年草または亜低木とし、自生域を中部地中海からモンゴル、パキスタンにかけての一帯としています。The Gin Guildによると、高さは1mほどで、7〜15cmの羽のような形の葉をつけます。[1][2]

ジンに使うのは根です。The Gin Guildは、商業栽培では7月から9月に根を掘り上げて株元から切り離し、洗って乾かすと説明しています。皮をむいたものとむかないものがあり、むいたほうが甘くなりやすいそうです。産地としては、中国、シリア、トルコ、イランを挙げています。名前はギリシャ語の「グルキュルリザ」、「甘い根」の意味です。ブランドによって使う産地は違い、ボンベイ・サファイアは中国産、シップスミスはスペイン産と説明しています。[2][4][5]

アニスやスターアニス、フェンネルと似た香り成分を持ちます。ただし植物としては無関係です。The Gin Guildはこの点を明記しています。[2]

甘みのもとはグリチルリチン酸で、風味は精油ではなくこの成分が担うとされます

リコリスの甘みを担うのは、グリチルリチン酸という成分です。Kewは、砂糖の50倍の甘さがあるとしています。日本の資料は少し違います。福岡県薬剤師会は約200倍、近畿大学東洋医学研究所は150〜200倍以上と書いていて、数字には幅があります。[1][6][7]

ジンの世界では、この成分の性質が珍しいとされています。Difford's Guideは、リコリスの風味は精油ではなくグリチルリチン酸が運ぶもので、精油の含有量は少ないと説明しています。同誌はこれを珍しい性質としています。[3]

ジンの中では、ほろ苦い甘みと厚みで全体をなじませます

Difford's Guideは、乾いて硬い繊維質の根を粉にして蒸溜に使うと書いています。風味は、はっきりしたリコリスらしさに加えて、軽く爽やかなほろ苦さと、木や土を思わせる味わいだそうです。ジンに土台と長さを与え、甘みをつけ、やわらげて丸くする役だと説明しています。[3]

口当たりについて、Gin Foundryは次のように書いています。リコリスの根は、ジンに油のような、粘りのある質感をもたらすといいます。風味はアニスやメドウスイートに近く、干し草のような木の味と、結晶になった砂糖のような明るい甘みが重なる一方、ミントのようなすっとした感じはないとしています。[8]

同じ根のボタニカルでも、アンジェリカルートとオリスルートは、ほかの香りを固定してまとめる根として同誌が別に説明しています。[3]

リコリスの根とリコリス菓子は別物です

Gin Foundryは、リコリスの根はリコリス菓子と似たものだという思い込みに対して、「事実からほど遠い」と書いています。Gin Foundryが挙げる風味は、干し草のような木の味です。[8]

菓子の側の歴史を見ると、この違いがわかります。英国ウェイクフィールド市の博物館の解説では、イングランド北部のポンテフラクトで、薬剤師のジョージ・ダンヒルが1760年に、根の抽出液と砂糖を合わせた最初のリコリス菓子をつくったとされます。「ポンフレット・ケーキ」や「ヨークシャー・ペニー」と呼ばれたものです。[9]

リコリスの用途は菓子にとどまりません。The Gin Guildは、菓子、うがい薬、食品、茶、タバコ産業を挙げています。Kewのデータベースには、ルートビアの材料になり、スタウトの着色にも使われるとあります。せき止めの薬やのど用のトローチにも使われるそうです。[2][1]

歴史は薬から始まり、英国では18世紀にリコリス菓子が生まれます

古い記録は、薬としての使われ方が中心です。The Gin Guildは、インドの伝統医学アーユルヴェーダで若返りのために使われてきたことと、ディオスコリデスが名づけたとも書いています。Gin Foundryは、ツタンカーメンの墓から見つかったこと、アレクサンドロス大王の軍で渇きを防ぎ持久力を高めるために配られたこと、ナポレオンが好んだことを紹介しています。[2][8]

西洋では、テオフラストスが著書で紹介しています。近畿大学東洋医学研究所の資料が触れています。[7]

英国の話です。ウェイクフィールド市の博物館の解説によると、1607年のカムデンの記録に、ポンテフラクトでのリコリス栽培が出てきます。1614年には、この町で薬用のトローチがつくられていました。1648年のポンテフラクト包囲戦の地図には、ミックルゲート通りの両側の囲い地で栽培されていることが記され、1750年の栽培者は47人と記されています。最盛期の工場は13軒でした。ポンテフラクトの城跡で栽培されているのは G. glabra で、のちに英国へ輸入されたものより繊細な風味だと同館は書いています。[9]

Gin-Atlas掲載銘柄でのリコリス

タンカレーは、ジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカルートと並べて、リコリスを土台の4種のひとつに挙げています。ディアジオは、1830年に蒸溜所を開いたチャールズ・タンカレーが300を超えるレシピを試したと説明しています。Diageo Bar Academyによると、ナンバーテンのこの4種は、タンカレー ロンドンドライと同じ顔ぶれです。ナンバーテンの二段目の蒸溜では、粉末にしたリコリスをほかのボタニカルとともに入れると、Boothbyは書いています。[10][11][12]

ボンベイ・サファイアのリコリスは中国産。Difford's Guideによると、リコリスは乾いた硬い根を粉にして使います。バカルディは2021年3月、10種類のボタニカルについて認証の取得を進めていると発表しました。その時点で認証が済んでいなかった2種のうち、1つがこの中国のリコリスでした。[4][13]

シップスミスは、スペイン産のリコリスがほろ苦い甘さで全体をなじませると説明しています。サイレント・プールは、ボスニア産のジュニパー、カシアとともに、リコリスを蒸溜器の中で24時間スピリッツに浸すところからつくり方を始めます。ザ・ボタニストの定番9種類のなかにも、リコリスが入っています。[5][14][15]

日本では「甘草」と呼ばれ、生薬であり、食品の原料でもあります

日本語では「甘草(カンゾウ)」といいます。近畿大学東洋医学研究所の資料は、基原植物としてウラルカンゾウ(G. uralensis)と G. glabra を挙げ、根とストロン(地表近くをはう茎)を使うと書いています。伝来は奈良時代、唐からだそうです。[7]

熊本大学薬学部の薬草データベースによると、ウラルカンゾウは日本薬局方に収載され、生薬名は甘草と炙甘草です。産地はロシアのウラル地方、モンゴル、中国北部です。日本ではまれに栽培されるとあります。[16]

食品との関係では、厚生労働省が公開している食薬区分(2026年9月に閲覧)に「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」があり、カンゾウ〈甘草〉(他名はリコライス、部位は根・ストロン)が載っています。効能をうたわない限り、医薬品とは判断されない原料という位置づけです。[17]

一方、医薬品には注意点があります。厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルは、甘草やグリチルリチン酸を含む医薬品と偽アルドステロン症という副作用の関係を取り上げています。福岡県薬剤師会は、食品添加物に由来するグリチルリチン酸の摂取量を、2015年の厚生労働省の調査で1人1日あたり0.368mgとし、安全性に問題はないと答えています(2017年8月時点の回答)。[18][6]

リコリスを使ったジン

参考資料

  1. Kew Science(Plants of the World Online: Glycyrrhiza glabra)
  2. The Gin Guild(Ginopedia: Liquorice)
  3. Difford's Guide(Gin Botanicals Explained)
  4. Difford's Guide
  5. Sipsmith 公式
  6. 福岡県薬剤師会 質疑応答(2017年8月の回答)
  7. 近畿大学東洋医学研究所附属診療所調剤室(カンゾウとは、2023年2月)
  8. Gin Foundry(Liquorice)
  9. Wakefield Museums and Castles(ウェイクフィールド市)
  10. Diageo plc
  11. Diageo Bar Academy(Diageo)
  12. Boothby
  13. Bacardi Limited 公式(2021年3月30日 ボタニカル認証の発表)
  14. The Gin Guild(イアン・マカロック紹介)
  15. Difford's Guide(The Botanist Islay Dry Gin)
  16. 熊本大学薬学部薬用植物園 薬草データベース(ウラルカンゾウ)
  17. 厚生労働省(食薬区分 別添3、日付の記載なし)
  18. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症(厚生労働省。PMDAのサイトに掲載)