オリスルートOrris root
アイリスの根茎を数年かけて乾燥・熟成させたボタニカルです。スミレを思わせる花の香りがあり、香水の原料でもあります。ジンでは、ほかの香りをつなぐ役として使われます。
オリスルートの基本情報
| 学名 | Iris pallida Lam.、Iris germanica L. など(アヤメ科)[1][2][3][4] |
|---|---|
| 使う部位 | 根茎を乾燥・熟成させたもの[2][5][3] |
| 主な産地 | イタリア(トスカーナ、フィレンツェ)、モロッコ[2][5][6] |
| 収穫と熟成 | 3〜4年育った株を収穫し、乾燥・貯蔵する。年数は資料により2〜3年から5年以上まで幅がある[7][8][3] |
| 香りの系統 | スミレ、花、土っぽさ、木質[2][3][6] |
| ジンでの役割 | ほかの香りをつなぐ役とされる。少量で使われることが多い[7][8][9] |
目次
採れたての根に香りはなく、数年の乾燥でスミレのような香りになる
オリスルートは、アイリスの根茎を乾燥させたボタニカルです。使うのは花ではなく、根茎です。原料の植物は、Iris germanicaまたはIris pallidaです(The Gin Guild)。[2]
蒸溜所のDunnet Bay Distillersによると、掘り上げたばかりの根は無臭です。3〜5年かけて熟成するうちに、花のような甘い香りが出てきます。香りは、スミレのような香りに、甘い土っぽさと木質が重なるとされています。[3]
熟成の年数は、資料によって違います。Difford's Guideは、3〜4年育った株を収穫し、使う前にさらに2〜3年貯蔵するとしています。Gin Foundryは、ジンに使うオリスルートは5年以上乾燥させたものが一般的だと書き、Dunnet Bay Distillersもジン用は少なくとも5年乾燥させたものだとしています。[7][8][3]
香りが育つ仕組みも研究されています。イランの研究チームは、Iris germanicaの根茎を調べました。論文によると、収穫後の貯蔵のあいだに、トリテルペン系の成分イリダールがイロンに変わります。イロンは、スミレに似た香りのもとです。従来はイロンをつくるために3〜5年の保管が必要とされてきましたが、この論文の主題は、その期間を縮める収穫後の処理方法です。[4]
植物としてのオリスルート
原料になるアイリスは、1種類ではありません。Dunnet Bay DistillersはIris florentina、Iris germanica、Iris pallidaの3つを挙げ、なかでも香水づくりでいちばん求められるのはIris pallidaだとし、Iris pallidaは地中海の暖かさの中で育つそうだと書いています。Kew ScienceのPlants of the World Onlineでは、Iris pallida Lam.もアヤメ科で、分布域は北イタリアからバルカン半島北西部とされています。[3][1]
Iris germanica var. florentinaは、かつて香水用のオリスルートの原料として育てられていました。王立園芸協会(RHS)の説明です。[10]
産地の書き方は、資料ごとに少しずつ違います。イタリアとモロッコを挙げるのはThe Gin Guild、主にフィレンツェ産と書くのはDifford's Guideです。同誌のボンベイ・サファイア蒸溜所のページは、トスカーナ産としています。香水用のオリスは、ほぼトスカーナだけで栽培されるという説明もあります(The Society of Scent)。京都蒸溜所の公式サイトは、「オリス(ニオイアヤメ)」と表記しています。[2][7][5][6][11]
香水では、根茎を粉にして蒸溜し、オリスバターをつくる
The Perfume Societyの説明では、香水にするときは熟成させた根茎を粉にして、水蒸気蒸溜にかけます。できたオリス油は固まって、「オリスバター」や「オリスコンクリート」と呼ばれる状態になります。[12]
The Society of Scentによると、1 kgのコンクリートに、およそ500 kgの根が要ります。香りは、スミレのような花の調子に、温かくクリーミーな土の気配が重なり、パウダリーで木質、革のような質感もあると表現されています。[6]
オリスは、ほかの香りをつなぎ留める素材としても扱われます。Gin Foundryは、オリスが評価されるのは、それ自体の香りだけでなく、ほかの香りをつなぎ、引き立てる力があるからだと書いています。[12][8]
使い道は古くからあります。古代ギリシャと古代ローマでは香水に使われ、髪や顔にはたく粉、匂い玉、身につける香り袋にも使われたといいます。英国の薬草書A Modern Herbalには、マケドニア、エリス、コリントがアイリスの香油で有名だったという記述があります。[8][12][13]
ジンでは香りをつなぐ役とされるが、蒸溜後にも効くかは意見が分かれる
風味を引き立て、調和させる。The Gin Guildは、オリスルートをそう紹介しています。蒸溜すると、かすかなスミレと花の香りが出ます。そこに深い木質の土っぽさが加わり、ジンの香りの組み立てに構造を与えると説明しています。相性がよいのはジュニパーで、松の鋭さを丸めるそうです。[2]
Difford's Guideは、オリスルートを、アンジェリカルートと同じように、ジンの中の香りと風味を定着させる助けになり、香水のような花の香りを加える根としています。蒸溜家が評価するのは、香りと風味を定着させる働きだとも書いています。根は非常に硬いものです。粉に挽いてから使います。[7]
異論もあります。Gin Foundryは、蒸溜したあとのオリスに定着剤としての働きがあるという主張を、裏づける科学的な根拠はないとしています。ジンの中では控えめです。使う量は、ごく少量が多いそうです。香りについては、鼻に立つ印象を「ドライで甘く、清潔」、口の中の印象を「強く甘く、木のよう」と書いています。[8]
銘柄の説明では、メーカーが「つなぎ役」と香りの両方を語る
シップスミスの公式サイトによると、花のような芳しい香りの出どころはオリスです。ベルギー産アンジェリカルート、スペイン産リコリス、イタリア産オリスルートの3つの根は、ほかのボタニカルの性質が引き立つように香りを調和させ、苦みを抑える、つなぎ役だと説明されています。[9]
ボンベイ・サファイアのオリスルートは、Difford's Guideによるとイタリアのトスカーナ産で、アンジェリカルートと同じく、香りと風味を定着させる助けになるとされています。香りは軽いそうです。パルマバイオレット(スミレ風味の菓子)や干し草に近い、という表現です。かごに詰める順番は、ジュニパーベリーやレモンの皮のような粒や皮が先で、オリスルートやカシアのような粉にしたものは後だとされています。公式サイトのジントニックの説明では、オリスルートとアンジェリカルートの土っぽく華やかな香りが、柑橘とジュニパーベリーを引き立てるとされています。[14][5][15][16]
京都蒸溜所の季の美では、オリスルートはジュニパーベリー、赤松とともに、骨格をつくる「礎(ベース)」に入り、公式サイトは、オリスをジンの歴史の中で「香り全体をまとめる重要なボタニカル」として使われてきたと紹介しています。数年かけて熟成させた根から、やさしい甘さとパウダリーな花の香りが引き出され、ほかの素材の香りを穏やかにつないで、全体に落ち着きとまとまりを与える、という説明です。ヘンドリックスにも入っています。11種類のうちの1つです。[11][17][18][19]
ほかの使い道は、香り袋、歯みがき粉、スパイスミックス
A Modern Herbalは、乾燥させた根の主な用途は香水で、香り袋に入れる粉、歯みがき粉、口臭を消す小さな菓子の香りづけにも使われると書いています。ヴェローナ産の長い根の片は、赤ちゃんの歯がため用の形に整えられました。洗濯のすすぎ水に粉を加えると、リネンに爽やかな香りが移るそうです。[13]
リネンの香りづけには、1480年までさかのぼる例があります。アニスと混ぜたオリスの根を使いました。Gin Foundryが書いています。[8]
料理にも使われます。北アフリカのスパイスミックス、ラス・エル・ハヌートには、オリスルートを加える配合があります。ブリタニカは、変わった材料の例として、オリスルートを挙げています。[20]
オリスルートを使ったジン
- Míl Mediterranean Style Ginアイルランド・コンテンポラリージン42.0%
- クラフターズ ワイルド フォレスト ジンエストニア・コンテンポラリージン47.0%
- グリーンフック・ジンスミス アメリカンドライジンアメリカ合衆国・コンテンポラリージン47.0%
- ザ・ボタニスト アイラ ドライジンスコットランド・コンテンポラリージン46.0%
- サイレントプール ジンイングランド・ロンドンドライジン43.0%
- シップスミス ロンドンドライジンイングランド・ロンドンドライジン41.0%
- ドラムシャンボ ガンパウダー アイリッシュ ジンアイルランド・コンテンポラリージン43.0%
- ドラムシャンボ ガンパウダー アイリッシュ ジン イタリアンフィグアイルランド・コンテンポラリージン43.0%
- ドラムシャンボ ガンパウダー アイリッシュ ジン カリフォルニアオレンジアイルランド・コンテンポラリージン43.0%
- ドラムシャンボ ガンパウダー アイリッシュ ジン サルディーニャレモンアイルランド・コンテンポラリージン43.0%
- ドラムシャンボ ガンパウダー アイリッシュ ジン ブラジリアンパイナップルアイルランド・コンテンポラリージン43.0%
- ブロークン・ボーンズ ロンドンドライジンスロベニア・ロンドンドライジン45.0%
- ヘンドリックス ジンスコットランド・コンテンポラリージン—
- ヘンドリックス フローラ・アドーラスコットランド・コンテンポラリージン43.4%
- ボンベイ・サファイアイングランド・ロンドンドライジン47.0%
- マーメイド ジンイングランド・コンテンポラリージン42.0%
- マーメイド ゼスト ジンイングランド・コンテンポラリージン—
- マーメイド ピンク ジンイングランド・コンテンポラリージン38.0%
- 季の美 京都ドライジン日本・ジャパニーズジン—
参考資料
- Kew Science(Plants of the World Online)
- The Gin Guild(Orris)
- Dunnet Bay Distillers(Beautiful Botanicals - Orris Root)
- ScienceDirect(Rapid alternative of the post-harvest process to enhance the irones content in Iris germanica L)
- Difford's Guide(Orris root from Tuscany, Italy)
- The Society of Scent(Orris Root)
- Difford's Guide(Gin botanicals)
- Gin Foundry(Orris Root)
- Sipsmith 公式
- 王立園芸協会(RHS)
- 京都蒸溜所(KI NO BI GIN 公式)
- The Perfume Society(Orris root)
- A Modern Herbal(Mrs. M. Grieve)
- Difford's Guide
- Difford's Guide(Bombay 製法)
- Bombay Sapphire 公式(Bombay Sapphire & Tonic レシピ)
- 京都蒸溜所(KI NO BI GIN 公式)
- Hendrick's Gin(米国公式サイト)
- Hendrick's Gin(公式サイト FAQ)
- Encyclopaedia Britannica(Ras el hanout)