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コリアンダーシードCoriander seed

ジュニパーベリーに次いでよく使われる、セリ科の果実(種子)です。葉のパクチーとは香りの成分が違い、ジンに柑橘の明るさと穏やかなスパイスを添えます。

コリアンダーシードの基本情報

学名Coriandrum sativum L.(セリ科の一年草)[1][2]
使う部位果実(ジンでは「シード」と呼ぶ)[2][3][4]
原産域東地中海から西パキスタン[1]
ジン用の主な産地ブルガリア、モロッコ、ルーマニア、ロシアなど[5][6]
収穫期日本では8〜9月に果実を採り、日干しにする[3]
香りの系統柑橘、ナッツ、ほのかなスパイス。精油の主成分はリナロール[4][7]
ジンでの位置づけジュニパーベリーに次いでよく使われるボタニカル[4][5]

目次

  1. コリアンダーシードは、ジュニパーの松の香りに柑橘の明るさを足す種子です
  2. セリ科の一年草で、使うのは熟した果実
  3. 同じ植物でも、種子と葉のパクチーは香りの成分が違います
  4. 産地によって香りの強さが変わるため、蒸溜家は産地を選びます
  5. ジンの中での役割
  6. Gin-Atlas の銘柄での使われ方
  7. 歴史と、ジン以外の使い道

コリアンダーシードは、ジュニパーの松の香りに柑橘の明るさを足す種子です

コリアンダーシードは、ジュニパーベリーに次いでよく使われるボタニカルです。専門サイトのGin Foundryはこう位置づけたうえで、コリアンダーシードを使わないジンはかなり珍しいとも書いています。[4]

香りの表現は資料ごとに違います。Gin Foundryは、蒸溜すると柑橘、ナッツ、わずかなスパイスが一度に感じられる複雑な風味になるとしています。シップスミスのジャレド・ブラウンは、選んだコリアンダーをレモングラスに黒胡椒を少し混ぜたような柑橘の風味と語っています。いちばん出るのは後味だといいます。[4][8]

セリ科の一年草で、使うのは熟した果実

学名はCoriandrum sativum L.、セリ科の一年草で、キュー王立植物園の資料では、原産域は東地中海から西パキスタンにかけてとされています。草丈は20〜80cm。[1]

ジンでは「シード(種子)」と呼びます。ただし日本の大学の薬用植物園は、使う部位を果実と記しています。東邦大学薬学部付属薬用植物園の解説によると、日本では8〜9月に果実を採って日干しにします。未熟なうちはカメムシに似た悪臭です。成熟した果実は、よい香りになります。[2][3]

名前の由来も、虫と関わります。Gin Foundryは、コリアンダーがギリシャ語で虫を意味する語に由来し、味ではなく匂いにちなむ名だと紹介しています。和名はコエンドロ。コリアンダーやパクチーの名でも呼ばれます。[4][2]

同じ植物でも、種子と葉のパクチーは香りの成分が違います

葉と種子は別物です。パクチーの名で知られる葉と、ジンに使う種子は、同じ植物の別の部位にあたります。スパイス事典を出す食品メーカーのエスビー食品は、種子の香りを「甘く爽やかでほのかにスパイシー」とし、葉とはまったく異なる香りだと説明しています。[9]

違いは、精油の成分に出ます。2020年の学術論文は、市販の精油を果実(コリアンダー)19点と葉などの地上部(シラントロ)28点で比べました。果実の精油ではリナロールが62.2〜76.7%を占めるのに対し、地上部の精油の主成分は、(2E)-デセナールが16.0〜46.6%、リナロールが11.8〜29.8%、デカナールが5.2〜18.7%でした。[7]

Gin Foundryも、種子の精油の約7割がリナロールだと書いています。ほかにジュニパーの成分としても挙がるα-ピネンと、レモンのような柑橘の香りのもとになるγ-テルピネン(10%未満)が含まれるとのことです。Difford's Guideは、リナロールを「まろやかでスパイシー、芳香がある」と述べています。挙げる香りは、砂糖漬けの生姜、レモン、セージです。[4][6]

葉の香りの感じ方には個人差があります。マコーミック・サイエンス・インスティテュートによると、多くの人は葉を爽やかな柑橘のように感じます。石けんのようだと感じる人もいて、理由は嗅覚の遺伝的な違いだそうです。熟した種子の香りは、葉とは全く別のものだとも述べています。[10]

産地によって香りの強さが変わるため、蒸溜家は産地を選びます

Gin Foundryによると、どこで採れたかは全体の風味に大きく影響し、多くの蒸溜家が産地を調べるのに時間をかけます。産地の挙げ方は資料ごとに違い、The Gin Guildはブルガリア、モロッコ、ロシア、東ヨーロッパを主な産地のうちに挙げ、風味は産地ごとに少しずつ違うと書いています。Difford's Guideが挙げるのは、モロッコ、ルーマニア、モルドバ、ブルガリア、ロシアです。[4][5][6]

強さにも差があります。Difford's Guideは、ブルガリア産の種子はモロッコ産よりも刺激が強いとしており、European Bartender Schoolも、ルーマニア産とブルガリア産はモロッコ産より香りが強いと述べています。[6][11]

銘柄側の説明を見ると、選び方はさまざまです。シップスミスの公式サイトは、コリアンダーシードをブルガリア産としています。同社の別のガイドでは、イギリス産とブルガリア産を使うとし、ブラウンは、自社のジンに合う種子を見つけるまでに9〜10の系統を試したと語っています。オピアはモロッコ産。ボンベイ・サファイアとジン・マーレは、どちらもDifford's Guideでモロッコ産とされています。[8][12][13][14][15]

資料で産地が食い違う例もあり、No.3 ロンドンドライジンのコリアンダーは、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッドの取材記事ではブルガリア産、Difford's Guideではモロッコ産とされています。[16][17]

ジンの中での役割

The Gin Guildは、コリアンダーを、フレッシュな柑橘と、根やスパイスの深く土っぽい風味との橋渡しをするボタニカルと説明し、精油が多いため、複雑さと爽やかさ、丸みのある口当たりを加えるとも書いています。European Bartender Schoolは、ジュニパー、アンジェリカルートとともにジンの土台になる3つのボタニカルの一つとし、ほかの2つをつなぐ役だとしています。[5][11]

ビーフィーターの公式サイトは、コリアンダーシードが柑橘、スパイス、わずかな胡椒の風味を添え、ジュニパーを引き立てると紹介しています。同社のロンドンドライジンは9種類です。コリアンダーシードのほか、シチリア産レモンの皮、セビリア産オレンジの皮、アンジェリカルート、アンジェリカシード、オリスルート、リコリスルート、アーモンド、そしてジュニパーが入ります。[18]

ジンの定義で決まっているのは、風味の主役がジュニパーだということです。Difford's Guideによると、EUの規則は、主な風味がジュニパーでなければならないと定めています。[19]

扱いにも幅があります。Gin Foundryによると、蒸溜の前に種子を焙煎する蒸溜家がいます。砕いてから使う蒸溜家もいます。[4]

Gin-Atlas の銘柄での使われ方

タンカレーの土台には、コリアンダーシードがあります。ディアジオの説明では、1830年にロンドンで蒸溜所を開いたチャールズ・タンカレーは、300を超えるレシピを試しました。The Spirits Businessは、たどり着いたのがジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカルート、リコリスの4種を土台にしたジンだったと書いています。ナンバーテンの8種のうち4種は、タンカレー ロンドンドライと同じ顔ぶれです。[20][21][22][23][24][25]

No.3の公式サイトは、コリアンダーシードを「温かく、甘く、花のよう」と紹介し、オピアの公式サイトは、モロッコ産のコリアンダーをジュニパー、アンジェリカルートとともに「ジンの三位一体」と呼び、同社の風味を形づくるものとしています。サイレントプールの公式サイトは、上品な温かみと柑橘のほのかな香りを添えると説明しています。[26][13][27]

日本のジンにも入っています。ニッカ カフェジンは、ジュニパーベリー、アンジェリカルート、コリアンダーシード、レモン、オレンジを、ジンでおなじみの5種として土台にしています。ROKUは、伝統的な8種のボタニカルの一つにコリアンダーシードを入れています。[28][29][30]

歴史と、ジン以外の使い道

コリアンダーは、ジンよりずっと古い香辛料です。カリフォルニア大学デービス校の栄養地理学のサイトによると、エジプトのツタンカーメン王の墓からコリアンダーの種子が見つかっています。旧約聖書の出エジプト記は、天から降ったマナをコリアンダーの種にたとえています。ローマの学者プリニウスは、エジプト産が優れていると記しました。ブリテン諸島には、ローマ人が伝えたとする説もあるそうです。エスビー食品は、古代エジプトの時代から薬用や調味料として使われてきた最古のスパイスの一つと考えられている、と説明しています。[31][9]

日本では、平安時代中期の文献にすでに記述があります。東邦大学の解説は、「延喜式」や「和名類聚抄」に、朝廷の料理で胡荽(コスイ)を生魚の薬味に使った記述があると紹介しています。[3]

料理では、熊本大学の薬用植物園の解説が、果実をスープやカレー粉、ソーセージの原料になる香辛料とし、生の葉はパクチーの名で肉料理やピクルスなどに使うと書いています。エスビー食品によると、肉、卵、豆の料理に使い、欧米ではピクルスやマリネの香りづけにも使われます。酒では、リキュールやビールの香りづけにも使います。マコーミック・サイエンス・インスティテュートは、フランスのハーブリキュール、ベネディクティンとシャルトリューズに欠かせない材料だと述べています。[2][9][10]

コリアンダーシードを使ったジン

参考資料

  1. Kew Science(Plants of the World Online)
  2. 熊本大学薬学部薬用植物園 薬草データベース
  3. 東邦大学薬学部付属薬用植物園
  4. Gin Foundry
  5. The Gin Guild(Ginopedia)
  6. Difford's Guide(ジンのボタニカル)
  7. Natural Product Communications(学術誌の査読論文、Satyal & Setzer, 2020)
  8. Sipsmith 公式(ボタニカルガイド)
  9. エスビー食品 スパイス&ハーブ検索
  10. McCormick Science Institute
  11. European Bartender School
  12. Sipsmith 公式
  13. OPIHR 公式(Spices of the Orient・英国版)
  14. Difford's Guide
  15. Difford's Guide
  16. Berry Bros. & Rudd
  17. Difford's Guide
  18. Beefeater Gin 公式(米国版)
  19. Difford's Guide(ジンの法的定義)
  20. The Spirits Business
  21. Diageo Bar Academy(Diageo)
  22. Diageo plc
  23. Diageo Bar Academy(Diageo)
  24. Boothby
  25. Difford's Guide
  26. No.3 Gin(Berry Bros. & Rudd)
  27. Silent Pool Distillers 公式(ボタニカル)
  28. Nikka Whisky
  29. Hotaling & Co.(米国輸入元)
  30. サントリーホールディングス(ニュースリリース 2020年)
  31. カリフォルニア大学デービス校 Nutritional Geography